【整形外科】膝蓋骨内方脱臼を併発した前十字靭帯損傷の犬の一例
2024/07/10

はじめに
前十字靭帯は大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)を繋ぎ、膝関節の安定性に寄与しています。加齢とともに靭帯が変性し、走ったり跳んだりした際に外傷性に損傷してしまう子が多いです。また、膝蓋骨内方脱臼(パテラ)の合併症としての前十字靭帯損傷も多く見られます。
診断名
右前十字靭帯損傷、右膝蓋骨内方脱臼(パテラ/MPL)
動物の種類、品種、年齢、性別
犬、ヨークシャーテリア、13歳、避妊雌
主訴(動物が来院した理由)
幼少期よりMPLの指摘はあったが、2〜3か月前より症状が悪化。消炎鎮痛剤の内服や運動制限で様子を見ていたが跛行が改善せず。セカンドオピニオン、治療相談を主訴に来院。
受診時の状態
初診時の診察内容(問診、視診、触診、聴診など)
元気食欲は問題なく一般状態は良好であった。
確認された症状や異常
診察台の上でも右後肢をやや浮かせるようなようであった。
検査
整形外科学的検査
歩様検査
・歩く際に右後肢に体重をかけないように歩く様子(負重性跛行)が認められました
触診検査
・左右膝蓋骨内方脱臼(パテラ) GradeⅢ
・右膝関節におけるドロワー検査陽性、脛骨圧迫試験陽性(ともに膝関節の不安定性を検出する検査)

X線検査
・左右ともに膝蓋骨内方脱臼が認められた


・右膝関節に関節液貯留所見(Fat Pad Sign)が認められた


診断
診断名
・左右膝蓋骨内方脱臼 GradeⅢ
・右前十字靭帯損傷疑い
治療
ご相談の上、外科療法により対応することとなりました。
右前十字靭帯損傷に対するTPLO法(Tibial Plateau Leveling Osteotomy:脛骨高平部水平化骨切り術)、膝蓋骨内方脱臼整復術を実施しました。
手術内容(術式、手術の詳細)
・TPLO法
TPLO法は専門的な技術や施設が必要となりますが、術後の運動機能回復に優れ成績が良いと言われている手術方法です。靭帯が無くても安定した膝関節にするため、脛骨近位を円形に骨切りし、プレート固定を行います。
・右MPL整復
大腿骨滑車溝造溝、内側支帯(縫工筋)リリース、外側関節包縫縮を実施しました。
経過と結果
入院は2泊3日でした。入院中は包帯の巻き替えやアイシングなどを毎日行い、基本的には安静に過ごしてもらいます。

退院後は、術後2週間/術後1か月/術後2か月の計3回の検診を実施、治療終了となりました。術後2か月の最終健診時には運動機能は100%良いっていいぐらいの元気な状態でした。
まとめ
前十字靭帯損傷は加齢による靭帯の変性や膝蓋骨内方脱臼(パテラ)の合併症として、急性の跛行を生じる疾患です。治療開始が遅れてしまうと、膝の不安定性による慢性的な跛行、滑膜炎や骨関節炎の進行、半月板損傷によるさらなる痛みにつながってしまう可能性があるため、早期の治療介入が必要だと思います。しっかり治療をすれば100%の運動機能回復を目指すことができます。