【整形外科】両側性の膝蓋骨内方脱臼GradeIV(パテラ)が認められたトイプードルの一例
2024/07/10
はじめに
膝蓋骨内方脱臼(Medial Patellar Luxation:以下MPL)は小型犬で最も多く認められる整形外科疾患です。膝蓋骨(膝のお皿の骨)が内側に脱臼してしまい、疼痛や違和感により跛行や挙上が認められることがあります。MPLは重症度により4段階にGrade分類され、一番重症度の高いGradeⅣになると脱臼を整復することができなくなり、膝蓋骨が脱臼したままになってしまいます。基本的には進行性の病気なので、時間経過とともに脱臼Gradeの悪化や運動がしづらくなってしまうなどの具体的な運動機能障害につながってしまう可能性もあります。
症例情報
動物情報(トイプードル、11歳、避妊雌)
主訴
幼少期よりMPLの指摘はあったが無治療のままきた。最近になって左後肢の跛行が顕著になり、踏ん張りがきかずに排便がしにくそう。ホームドクターで相談するも高齢を理由に具体的な治療提案はなかった。セカンドオピニオンや外科療法を考え当院に来院されました。
受診時の状態
初診時の診察内容
一般身体検査に異常はなく、整形外科学的検査で現在の足の状態を把握することとなりました。
検査
整形外科学的検査(触診検査、歩様検査)
歩様検査
・左右後肢ともにMPLにより膝関節が伸びずO脚になっている。後肢の踏ん張りがきかずに平坦な床でも滑ってしまう様子が見られました。
触診検査
・左右後肢ともにMPL GradeⅣであり膝蓋骨の整復はできなかった
・MPLにより膝関節の伸展障害が認められた
X線検査
・左右ともに膝蓋骨の内方脱臼、脛骨の内旋が認められた
・前十字靭帯疾患を疑う所見は認められなかった
診断
左右両側性の【膝蓋骨内方脱臼 GradeⅣ】と診断
治療
各種検査より、今後の治療方針として内科療法、外科療法をお話ししました。ご相談の上、運動機能の回復とQOLの向上を目指し、外科療法を実施することとなりました。
手術内容(左右ともに)
①大腿骨滑車溝造溝術(Block Recession)
②内側支帯リリース
③外側関節包縫縮
④脛骨粗面転移術
経過と結果
治療後の動物の経過と最終的な結果を記載します。
術後のX線検査
最終的な結果
左右同時に膝蓋骨内方脱臼に対する整復手術を実施しました。
術後は2泊3日で退院となりました。
退院後は術後2週間検診、1か月検診、2か月検診を実施しました。術後2週間はしっかりとした運動制限(安静)が必要となりますが、3週間目以降はお散歩に行けるようになります。術後2か月検診時には手術前よりも元気に走れるまでに回復し、経過良好のため検診終了となりました。
考察
術前の脱臼Gradeが高く膝関節の機能障害も出ていたことから、術前にしっかりと状態把握をした上で手術計画を練り、手術を実施しました
まとめ
症例の総括
本症例はMPLの進行により膝関節の機能障害、それにより日常生活に支障が出てしまっていましたが、年齢を理由に適切な診療を受けず過ごしていました。当院で全身的な体調や足の状態をしっかりと評価することで、適切な診療をご相談することができました。
飼い主様へのアドバイス
MPLは進行性の病気であり、完治を目指すには手術が必要になりますが、必ずしも手術をしなければいけないわけではありません。適切な病態把握と管理をすることで100%の運動機能やQOLを維持することが可能な場合もあります。